2011年03月11日

仏教Q&A 坊さん、肉食っていいのか?

今回も”非常に身近だけど、ホントはどうなの?”と思える、骨のある(?)ご質問をいただきました。

<ご質問>
和尚様って肉、魚、食べても良いんでしょうか? 生きているものは食べちゃいけないというイメージが強いので教えてください。
また、我々仏教徒が口にしてはいけない物ってあるのでしょうか?


<お答え>
これはまた一口に言い切れない、難しい問題です。要するに「僧侶は精進料理しか食べちゃダメなの?」ということだと思うんですが、最初に私の結論から申し上げます。
「どんなものでも、感謝してありがたくいただきます。ただ、お肉やお魚を食べられない期間もあります。ただし、すべての僧侶が一律同じではありません。」
それから仏教徒の方へは「口にしてはいけないものは特にありません。食べ物はありがたくいただきましょう」です。

**************

なんだそれ?という突っ込み大歓迎なんですが、どうしてこんなにへっぴり腰の曖昧模糊(?)な結論なのでしょうか。ちょっと歴史的に見てみます。

(*長くなってしまったので、「追記」にしました。ご興味のある方はどうぞご覧ください)

まず、ブッダが生きている頃、ブッダは肉や魚を食べたでしょうか?
答えは「食べていた。」です。
ちょっとびっくりされるでしょうが、そもそもの仏教は僧侶が自分たちで食事を作ったり、農作業などの労働に携わることが禁止されていました。つまり、一般の信者さんがくださったものなら、お肉であろうとお魚であろうといただいていました。

その後、中国に仏教が伝わると、仏教自体も劇的な変化を遂げます。
本来禁止されていた、農作業や調理などの労働に従事するようになります。お寺に畑があって、僧侶が耕し、それで食事を作ることができました。
ここで一般的に「精進料理」と呼ばれる様式が確立されます。この「精進料理」というのは、(確か)道教の影響下で生まれ、そしてお寺自体が”自分のお寺は、お前の寺よりもっと規則が厳しいぞ!”的競争が起き、食べ物制限がエスカレートした結果に成立したものと言われています。

「では精進料理って何?」ということですが・・・・精進料理は肉・魚・卵はもちろん、カツオの出汁や牛乳を含めた乳製品、ネギやニンニク、浅葱などの(=五葷、ごくん、と読みます。5種類の野菜)匂いのつよい野菜も禁止です。
(*この辺りは私も不勉強なので、ちょっとこわいのですが、インドで大乗仏教が興ったとされる頃にはインドでも既に、精進料理的、つまり、完全な精進料理ではないにしろ肉や魚を食べないスタイルができてき始めた、と何かの本で読んだことがあります。ただし、五葷については私もよく分かりません)

ここで一度、ブッダが生きていた頃に話を戻します。ブッダが6年の苦行の後、「体をいたずらに傷つけても、その先で悟りを得ることができない」と確信して、意を決し断食をやめる時があります。その時、スジャータという村娘が、”乳粥”をもってブッダに差し上げ、それを召し上がられた、という話があります。

”乳粥”とは何なのか?という疑問もありますが、一般的に、穀物やコメを水牛(確か)のミルクで煮立てて作ったものと言われています。でも実はこれ、前述のとおり精進料理では「禁止」です。何故ならばミルクを使っているからです。

ここで既に矛盾と言えば矛盾だし、進歩と言えば進歩が起きているんです。

そして更に日本に仏教が流入されます。その当時は、中国式(含む朝鮮半島)の仏教が入ってきたわけですから、当然精進料理だと考えられます。ですが・・・法然上人(浄土宗の祖)は信者から「魚を食べてもよいのですか?(魚を食べても往生できるのですか?)」と聞かれたところ、「食うにもよらず、食わぬにもよらず」と答えられたそうです。

私個人的には、この「”食べる”に執着するでもなく、”食べない”に執着するでもない」という中途半端(大変失礼ですが)にも思える法然上人の言われたお言葉が、とてもありがたく、腑に落ちます。
(*ただし、この上人のお言葉は僧侶に向けて言ったのではなく、信者に対していったのかもしれません。ちょっと原典がどこにあるのか他宗派の私では分からないので、解釈が違うという可能性も十分あります)

もともと、仏教は「肉を食べる、とか、食べない」という教えではなく「(肉を食べたい!、とか逆に、絶対食べない!!、という)そうした”固執する心”を捨てなさい。偏るのではなく、バランスをとりなさい」という考えだったはずです。なぜならブッダも肉や魚を召し上がられた筈ですので。(もちろん、その為に生き物を殺すのは禁止ですが)

ちょっと脱線しましたが、まだややこしくなります。
近代日本において極め付けなのが、明治5年の太政官布告「肉食、妻帯、畜髪勝手たる事」というものです。要するに、僧侶がお肉を食べてもよいし、結婚してもよい、髪を伸ばしてもよい、というものです。これを根拠に「肉を食べてよい」という人もいますが、でも、これは明治政府の法律ですし・・・。数年後に解除されたという話も聞いたことあるし・・・だから非常に難しいです。(不勉強ですみません)

とても大雑把ですが、歴史的にはおよそ上記のとおりです。

歴史的には解決できないなら、重要なのは曹洞宗の教義です。
曹洞宗の十六条戒(要するに、曹洞宗の僧侶が受ける戒律。正確に説明するのは私には無理ですが・・・”自ら選び取り、自分に課す誓願”くらいにとってください)の中には「肉を食べてはいけない」という条項はありません。

でも、永平寺の修行中は、修行僧がいただく食事は、上記にある完全な「精進料理」です。肉・魚・卵、出汁も動物性のものは一切ありません。最初に「食べられない期間がある」と申し上げたのは、これが理由です。それから、これは永平寺のルールなので、全国のお寺に敷衍しているかどうかも分かりません。同じ修行道場でも、ブッダのように「信者さんからのいただきものは、肉でも魚でもすべていただき、僧侶に分けて食べる」という修行道場もあります。
もちろん、宗派によっても差異がありましょうから、厳格に精進料理を守る宗派もあると思います。
(*私の友人で真言宗の方は、やはり同じように修行中は精進料理だったと言っていました)

曹洞宗などの禅宗系宗派は食事前に「五観の偈」というお唱えごとがあります。宗派によって若干違いがあるみたいですが、言わんとするのはほぼ同じで、名の通り食事をいただく前に5つの条項を読み上げ自誓します。4つめに「食事をいただくのは、この身体を健やかに保つためです」という意味を唱え、最後5つめに「(健やかな身体を保ち)修行を円満に進めるために、この食事をいただきます」という意味の語を唱えます。

やっぱり、ここにおいて「ありがたくいただく」のが大事なのかなぁ、と私は思っています。
つまり、「何を食べるかではなく、どういただくか」が重要なのではないか、ということです。


今回のご質問は、”結婚してもいいの?””お酒飲んでいいの?”と並ぶ非常に難しい、しかし身近なご質問でした。今回ばかりは、うまくお答えできているのか自信なしです(涙)      合掌



(*余談ですが、ダライラマ法王って、お肉も召し上がられているのをご存知ですか?チベットという国自体が、新鮮な野菜が豊富とは言い難く、伝統的にお肉が基本食らしいです。法王も一時は精進食をされていた時期があったそうですが、体調を崩され、医者に「体調を保つため、肉食に戻してください」と言われて元に戻された、と『ダライラマ自伝』にあったと記憶しています。
やっぱり「そこ=肉を食べる、食べない」ではないんでしょうね。)


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Posted by 泰明@西光寺 at 20:20
Comments(3)仏教 Q&A
この記事へのコメント
肉食の問題は難しいね。それで十数本あるいはそれ以上の論文があるぐらいだから。

まぁ、肉食禁止は北伝仏教特有の問題で、南伝の上座部では肉食は認められているし。
自分のために殺されたものでない肉=布施された、余り物の肉であるなら口にすることは認められる、というのが一応の伝統説です。だから、仏陀も肉を口にしたわけです。
布施されたもの=乞食によって得られたものは通常在家者たちの余り物だから、そのようにして得られたものは基本的に問題とはならないはずだったんだけど、時代や地域が変遷し、仏教が次第に多様化していった結果、肉食禁止が説かれる大乗経典が現れたりして、、、といった具合かな。なかなか難しいです。
Posted by てんしょう at 2011年03月11日 21:29
>てんしょう師

難しいね。ホントに。こういうのは書く方も勇気がいります。学者じゃないし、資料も信に足るのかよくわからんし・・・。

”自分のために殺されたものでない肉”・・・三種の浄肉だよね。

最近、ホントに痛切に思うけど、大乗仏教がどうして起こったのか、とかその周辺を考えないと、何もわからないような気がしています。大変に難しい問題です。

でも、貴師のような素晴らしい碩学の友人がいることが、私にとって何より心強くありがたいことです。またご教授ください。
Posted by 泰明@西光寺泰明@西光寺 at 2011年03月19日 18:16
勉強になりました、有難う御座います。合掌
Posted by 一仁 at 2014年07月20日 09:51
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