2012年01月24日

物事への欲や興味がありません

久々「悩みのるつぼ」。
朝日新聞土曜版beの紙面からピックアップして、なにがしかを書き連ねるコーナーです。(毎週、一応目は通していたのですが、このところ特に採り上げたいと思う内容がなくって・・・)


*質問者(男性・24歳)

昔から周りの人間と比べて、物事に対する欲や興味がうすく、あらゆる職業に興味がわきません。

出世して偉くなって収入を増やしたいとか、会社の業績を挙げようなどとは全く思いませんでした。同じ会社の人たちと、そのような価値観の違いが重なり、先日、ついに退職を決意しました。

私は物心ついたときから将来の夢が特にありませんでした。一日三食食べられればいいと書いた記憶が残っています。
どんな肩書きもほしいとは思わないし、日本経済のために身を削ってといった思いもありません。

ただ、毎日を平和に穏やかに過ごすことができたら・・・。
しかし、現代の社会はそのような人間をなかなか受け入れてはくれません。むしろ排除していく傾向にあるのではないでしょうか。
今の世を生きて行くには、欲や夢が必要だということなのでしょうか。それらを抱くにはどうすればよいでしょうか。



*回答者(経済学者 金子勝氏)

あたなは、欲がなく、職業に関して将来の夢もないと悩んでいます。しかし、欲や夢がないことが悪いことなのでしょうか。

今は「1日3食」食べられない不安を抱えた人たちがたくさんいます。同世代の人が非正社員になり、無年金の独居老人もおり、母子家庭と子どもの貧困も増えています。
あなたが書くように「現代社会はそのような人間」を「排除」する傾向にあります。それが問題なのです。

そういう人たちのために役立つ仕事を選んでみてはいかがでしょうか。

あなたには、欲も夢もない代わりに、「アラユルコトヲ ジブンノカンジョウニ入レズニ」という立派な個性が天から与えられています。きっと「よだかの星」のように燃え続けることができるはずです。

(*質問・回答ともに泰明による取意抜粋)



私が興味を引くのは、“なぜ質問者は「物事に対する欲や興味がうすく」なってしまったのか?”という点です。
この点が分かると、とても面白い。面白いと言っては失礼ですが、何故興味があるのかといえば・・・
「この人、坊さんになったらいいのに」
と思うからです。

先日の記事にもチラッと書きましたが、最近、道元禅師の著された『学道用心集(がくどうようじんしゅう)』を拝読しています。
この書は、道元禅師が弟子の懐奘禅師に説かれた、学道の基本となる心得を書き付けたものです。

そのはじめに、
「誠に夫れ無常を観ずる時、吾我の心生ぜず、名利の念起こらず、時光の太(はなは)だ速やかなることを恐怖(くふ)す。」とあります。
要するに、
「誠にもって、“無常”というものをよく観察したとき、吾我(自我だとか他者という区別の心、エゴ)も生まれないし、名利を愛する気持ちなども起こらず、ただ時間の過ぎ去っていく早さをおそれるものだ」というような意味になろうかと思います。(尤も、岸沢惟安老師の提唱によれば、もっとずっと深い理解がされていますが・・・難しい)

この質問者さんが何故“名誉欲”がうすいのかは分かりません。でも、少なくとも名利を求める気持ちは大きくないはず。そう言う意味では、結構お坊さんに向いているのかな、と人ごとながら思ってしまいました。

それに、こうした人を受け入れることができるのも、またお寺なのかな、とじみじみ思う朝でした。



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Posted by 泰明@西光寺 at 20:25
Comments(2)曹洞宗って・・・?
この記事へのコメント
この人の養育環境がわからないし、私は素人なので確たることは言えませんけれど、心理学的な何らかの問題を抱えているのかな、と思いました。

 単に物事に対する意欲がないのか、あるいは仕事を与えられればきっちりこなすのか。自分と他者にどの程度関心があるのか。

 相談者の心構えとか、「こういう考え方をしてはどうですか?」という金子さんの助言とか、問題の所在はそこにはないように、私には思えました。

 ただ、「物事に対する欲や興味がうすい」のが昔からなので、かなり生きにくさを経験してきたであろうことは察せられます。
Posted by T.Emi at 2012年01月25日 22:36
>Emiさん

コメントありがとうございます。

そうですよね。私も”なぜ質問者は「物事に対する欲や興味がうすく」なってしまったのか?”という書き方をしたのは、たぶんEmiさんの言われるように、他に要因がありそうな気がしたからです。

あの文章だけでは、正直状況がよく分からないし、金子氏の回答もちょっとトンチンカンになる気がしました。そこはEmiさんの仰るとおりです。

こういう方の話を聞くことも、或意味宗教者の本分だとは思うのですが、ま、一般の人はやっぱり朝日新聞に質問しちゃいますよね(苦笑)

私の宗教者の端くれとしてがんばらねば、と思う今日この頃です。
Posted by 泰明@西光寺 at 2012年01月26日 09:53
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